20世紀半ば以降、地球規模で生物多様性の損失が加速度的に進んできました。オムロンはこれを阻止することを目的に、企業の社会的責任の一環として「事業活動」と「社会貢献活動」の2つの側面から、生物多様性の保全に取り組みます。また、この取り組みを確実にするために「関係者との連携」「客観的な効果測定の重視と継続的な改善」「発生するリスクの低減と社会全体で共有しうるメリットの最大化」の3点に留意します。
以上を重視し、活動を展開していきます。
オムロンは、国際NGOコンサベーション・インターナショナル(CI)※との協働プロジェクトで、生物多様性方針を策定しました。
CIには、「なぜ生物多様性に取り組むのか」という本質的な議論に加え、方針・取り組みを考えていく上で、「妥当性」「有効性」「効率性(貢献性)」という観点を基本に考えるべきだと指摘をいただきました。 こうしたプロセスを経て、「企業というものは人間社会の上に成り立っているが、人間社会は自然社会の上に成り立っている。オムロンでは、『企業は社会の公器である』という基本的考えのもと、生物多様性を環境の一分野として捉えるのではなく、より良い社会実現のためのサステナビリティ活動の基盤として考える」という結論に達しました。
※ コンサベーション・インターナショナル(CI)
自然生態系と人とのかかわりを重視して環境問題を解決することを目的に設立された民間非営利の国際組織(NGO)。科学、パートナーシップ、そして世界各地での実践に基づき、次世代に豊かな自然を引き継いでいく社会を実現し、人類の幸福に貢献することをミッションに活動している。
野洲事業所は、マザーレイクと称される琵琶湖がある滋賀県に立地しています。2021年9月末まで半導体・MEMSを製造する工場を有していたため、環境には特に配慮して排水を浄化後、河川に放流していました。その工場排水を有効活用し、2011年に造成したビオトープ※1で、環境省が絶滅危惧IA類に指定しているイチモンジタナゴ※2の保護・増殖を行ったり、近隣の学童保育所や小学校の児童向けに自然観察会を開催し、子供たちへの環境教育にも貢献してきました。その結果として、滋賀県が生物多様性の保全や自然資源の持続的な利活用を評価する「しが生物多様性取組認証制度」では最高認証である三ツ星を取得しました。
しかしながら、2021年10月に半導体・MEMS事業が別会社に譲渡され、併せてビオトープの敷地も譲渡対象となったため、従来のようにビオトープを活用した生物多様性の取り組みは出来なくなりました。今後は2018年度より参画している「生物多様性びわ湖ネットワーク(以下BBN)」を中心とした活動を推進していきます。
BBNでは、滋賀県に拠点を持つ企業7社(オムロン含む)が共同で、水と深い関係があるトンボを共通の指標生物とし、これまで県内で確認がある100種のトンボの調査、保全、発信の3つのアクションを活動の軸として取り組んでいます。2021年度は、地域の子供たち向けにトンボの観察会および標本作りの開催や、琵琶湖博物館様との共催で約1か月間の企画展示会を開催し、これまでの取り組みを多くの人に伝える機会となりました。これらの活動が評価され、「日本自然保護大賞2021」では教育普及部門にて大賞を受賞することができました。
野洲事業所独自の活動として、滋賀県レットデータブック2020年度版で希少種に指定されているトンボ『マイコアカネ』の保全・復元(モニタリング、保護増殖、生息地の改善)に注力しています。近年、マイコアカネは滋賀県において生息地や生息数が減少していますが、野洲事業所構内では毎年飛来が確認されており、飛来状況の調査を継続的に実施しています。また、事業所内にコンテナビオトープを創出し、繁殖地の創出や採卵した個体を用いて保護増殖する取り組みを行っています。マイコアカネの生息地の一つである野洲川河畔林では、2021年度に、野洲事業所の社会貢献活動の一貫として、従業員参画のもと、地域の方と連携し、トンボの繁殖地の環境改善と新しい生息地の創出を行いました。
これまでの取り組みで、事業所の緑地は地域の自然の一部となっていることがわかりました。これからも、事業所の緑地を活かして、地域個体群の保全に取り組み、希少な種や地域の在来種の保全を推進するとともに、地域や他社との協働による環境保全の環を広げていきます。
そして、今後、オムロンは、当社およびサプライチェーンにおいて、重要な生態系や重要性の高い動植物の生息地周辺での事業活動を回避・最小化するための方針を検討していきます。
※1 ビオトープ
ドイツ語の「生物」を意味するBioと「場所」を意味するTopの合成語で、野生動植物が生息する空間を意味する。最近は、生態系としての森林や川、沼、湿地、草地、雑木林の総称としても使用される。日本では人為的に造り出したものの意味で使用されることが多い。(「生物多様性読本」日経エコロジーから引用)
※2 イチモンジタナゴ
コイ科の淡水魚で、環境省のレッドリストでIA類(もっとも絶滅が危惧される種)に指定されている。体側には青緑色の長い縦条があるため、イチモンジの由来となっている。もともとは琵琶湖淀川水系等で多数生息していたが、外来魚の増加や河川改修により、今では琵琶湖ではその姿を見ることはできない。